真夜中と憧れ
チン!と跳ね上がるトーストを右手で受け止める。小麦粉の初々しい香りに口角が上がる。ナイフにこんもり盛った黄色いバターをザクッと伸ばす。パンの皮膚はグランドキャニオンの岩のようにゴツゴツとしいて、口の中を傷つけるくらいにハードだ。コーヒー豆の熱い涙をサーバーに1滴残らずしぼりきったところで、やや高い位置から肉厚のマグカップへ注ぐ。舞い上がる湯気をすべて吸い込む。
そんな完璧な朝食まで、まだ6時間もある。妄想は止まらない。真っ暗なベッドの中、空っぽの胃が悲鳴を上げている。
チン!と跳ね上がるトーストを右手で受け止める。小麦粉の初々しい香りに口角が上がる。ナイフにこんもり盛った黄色いバターをザクッと伸ばす。パンの皮膚はグランドキャニオンの岩のようにゴツゴツとしいて、口の中を傷つけるくらいにハードだ。コーヒー豆の熱い涙をサーバーに1滴残らずしぼりきったところで、やや高い位置から肉厚のマグカップへ注ぐ。舞い上がる湯気をすべて吸い込む。
そんな完璧な朝食まで、まだ6時間もある。妄想は止まらない。真っ暗なベッドの中、空っぽの胃が悲鳴を上げている。
ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。
自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。
でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。
そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。
広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。
color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com
◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。
イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com