ポストの中の地平線
彼は一通の封筒を手に歩いている。封筒がシワになるのを恐れ、握りしめないように気をつけながら歩いている。目線の先にポストが見えてくる。毎日視界に入っているはずなのに、初めて見るような存在感だった。(イメージより背が低く、イメージよりぽってりとしていた)
ポストの前に立つ。遠くから部活の声が聴こえてくる。冷たく白い空気の中で、手のひらだけが汗ばんでいる。差し出し口のこっち側とむこう側では、別の地平線があった。彼は手首ごと奥に入れ、指を放す。封筒はどこまでも深く、真っ暗な井戸のような空間に、ひらひらと回転しながら落ちていった。(ような気がした)彼はもう後戻りできない。