駆け抜ける方向。
美術館を出ると、雨は大降りになっていた。目の前には広い公園が続いていて、ふたりはどうするか一瞬戸惑ったが、顔を見合わせると同時に走り出した。男性は女性の腕を軽く持っていたが、それも勢いでふりほどくかたちになった。真っ直ぐに刺す雨は、女性のピーコートの色を変えていく。遊園地のような悲鳴が、いつしか弾ける笑い声になっていく。水たまりを飛び越えずに、ジャブジャブと鳴らした。森の匂いが深々と立ちあがる。大きな木の下に着いたときは、ふたりは恋人の一歩目を踏み入れたらしかった。
美術館を出ると、雨は大降りになっていた。目の前には広い公園が続いていて、ふたりはどうするか一瞬戸惑ったが、顔を見合わせると同時に走り出した。男性は女性の腕を軽く持っていたが、それも勢いでふりほどくかたちになった。真っ直ぐに刺す雨は、女性のピーコートの色を変えていく。遊園地のような悲鳴が、いつしか弾ける笑い声になっていく。水たまりを飛び越えずに、ジャブジャブと鳴らした。森の匂いが深々と立ちあがる。大きな木の下に着いたときは、ふたりは恋人の一歩目を踏み入れたらしかった。
ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。
自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。
でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。
そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。
広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。
color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com
◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。
イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com