今日は歩いて帰ることにした。
一歩一歩、足を前に踏み出しているうちに、身体がだんだんと軽くなっていく。歩けば歩くほど、むしろ身体がないみたいになっていく。書類がつまったトートバッグさえも重さがなく、ただ勝手に肩にひっかかっている感じ。若い女性の笑い声やら、カフェのグリーンのヒカリやら、散歩する犬のぬれっとした瞳やらが、秋、最初のセーターに染み込んでいく。感覚だけが目をぱっちりと開けて、赤ん坊みたいに吸収していく。このまま、どこまでも歩いていけそうな気がしてくる。何にもとらわれていない、偏りのない、素晴らしく均整のとれた自分が、ただただ歩いている。