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ひとりテレビ最高な状況。

午後3時、ドラマの再放送を観ながらドーナツを食べている。ひと袋5個入りで、スーパーマーケットから買ってきたもの。たまごの味がしてちょっと固くて、表面には砂糖がまぶしてある。

学校の宿題も、ママから頼まれたリビングの掃除も、ボーイフレンドへのメッセージも、すべてを放棄してテレビの画面に釘付けになっている。コマーシャルのすきにイエローラベルの紅茶をいれる。ストレートで飲む。ドーナツ、紅茶、ドーナツ。それらを交互で味わう。

「絶対にあいつだ」。犯人が誰であるかをひとりつぶやく。自分の声が予想以上に部屋に響いて、少し驚く。窓に目をやると、グレーの空に大きな雲がものすごい勢いで移動している。ドーナツはいつの間にか3個も食べていた。
ドラマの中でやっぱりあの男が、紅茶の中に毒を入れている。

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電車は遅れておりますが

ふわっと映像が浮かんで、
こころが6.6グラム(当社比)軽くなる。
ワンシチュエーションでつづる、
シラスアキコのショートストーリー。

自分がジブンにしっくりくる感じの時は、気分がいい。
こころと身体が同じ歩幅で歩いているのがわかる。
いつもこんな感じで生きていきたい。

でも、かなりの確率でイライラと聞こえてくる
「お急ぎのところ、電車が遅れて申し訳ございません」。

そんな時は“ここじゃないどこか”に、
ジブンをリリースしてしまおう。
きっと気持ちの針が、真ん中くらいに戻ってくるから。

シラスアキコ Akiko Shirasu
文筆家、コピーライター Writer, Copywriter

広告代理店でコピーライターとしてのキャリアを積んだ後、クリエイティブユニット「color/カラー」を結成。プロダクトデザインの企画、広告のコピーライティング、Webムービーの脚本など、幅広く活動。著書に「レモンエアライン」がある。東京在住。

color / www.color-81.com
レモンエアライン / lemonairline.com
contact / akiko@color-81.com

◎なぜショートストーリーなのか
日常のワンシチュエーションを切り抜く。そこには感覚的なうま味が潜んでいる。うま味の粒をひとつひとつ拾い上げ文章化すると、不思議な化学反応が生まれる。新たな魅力が浮き上がってくる。それらをたった数行のショートストーリーでおさめることに、私は夢中になる。

イラストレーション
山口洋佑 / yosukeyamaguchi423.tumblr.com